【超訳】1984第二部 第2章2|無監視下での甘いひととき

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「このブツ、どこで仕入れた?」

「ダークウェブ(闇市)よ」ジュリアは事もなげに言った。「私、見かけ上は『完璧なユーザー』で通ってるから。スポーツ万能、スパイ団の元リーダー。週に三晩はボランティアで、街中にあの『反セックス』のクソみたいなバナーを貼りまくってる。デモの時はいつも先頭で旗を持って、誰よりもデカい声で叫ぶ。それが、この世界でBANされずに生き残る唯一のチート(安全策)よ」

チョコの最初の一片が舌の上で溶けた。脳が震えるような快感。だが、意識の隅で「古い記憶」がデッドセクタのように蠢く。形にならない、だが確実に自分を苛む「過去の過ち」。彼はそれを思考の奥へパージした。今はただ、このアナログな味覚に浸っていたかった。

「君は若すぎる。僕のような、旧型(オールドタイプ)の男のどこに惹かれたんだ?」

「あなたの顔よ。一か八か、賭けてみたくなったの。私、『システムに適合できていない個体』を見つけるのだけは得意だから。あなたを見た瞬間、直感したわ。あなたは『あいつら』のソースコードを書き換えたがってるって」

『あいつら』――党中枢(インナー・パーティー)。彼女が吐き捨てる言葉には、システムの裏側に溜まった汚泥のような、剥き出しの憎悪が混じっていた。

彼女が時折口にする下品な罵り言葉は、もはや「言語によるテロ」だ。だがそれは、腐りきったサーバーにフレッシュな空気を送り込むような、圧倒的に「生身」の響きがした。

二人は再び歩き出した。サッシュを外した彼女の腰は、驚くほど柔らかく、温かい。

森の縁。ハシバミの茂みの陰。葉漏れ日が二人の顔を熱く焼く。

その時、ウィンストンを奇妙な既視感(デジャヴ)が襲った。

「知っている」――この光景を。

緩やかに起伏する牧草地。女の髪のように風にそよぐ楡(にれ)の木々。

「この近くに、小川があるはずだ。柳の下で、大きな魚が尾を振っているような……」

「そうよ、その通り。次のフィールドの端にあるわ。よく知ってるわね」

「……ここは、『黄金の国』だ。僕がずっと、夢(仮想世界)の中で見ていた景色そのものだ」

「見て!」ジュリアが囁いた。

目の前の枝に、一羽のツグミが舞い降りた。

鳥は、太陽に向かって一礼するような仕草をした後、奔流のような歌声を響かせ始めた。

その音量は、静寂の中で暴力的なまでに美しかった。二人は寄り添ったまま、その「無意味な音楽」に圧倒された。

捕虜たちが流し込まれていた「VRの快楽」には、こんな無駄な美しさはない。

この鳥は、誰のためでもなく、何のためでもなく、ただその瞬間の衝動だけで歌っている。

ウィンストンは思った。どこかの盗聴マイクが、この歌声を拾っているかもしれない。

だとしたら、向こう側の小役人は、この「無意味」という名のテロをどう解析するだろうか?

鳥の歌声は液体のようにウィンストンを浸し、日光と混ざり合い、彼の思考を停止させた。

「今、ここで」

彼は耳元で囁いた。

「ここではダメ。隠れ家に戻りましょう。その方が、セキュリティが堅牢よ」

二人は急いで、あの閉ざされた広場へ戻った。

肩で息をしながら、ジュリアはウィンストンを真っ直ぐ見つめた。そして、作業着のジッパーに指をかける。

次の瞬間――それは、ほぼ彼の「夢」の完全な再現だった。

彼女が服を脱ぎ捨てるその壮大なジェスチャーは、もはや脱衣ではない。

それは、ビッグ・ブラザーが構築した全文明、全システム、全プロトコルを、一瞬でシャットダウン(抹消)する、究極の反逆だった。

陽光の下、彼女の白い肉体が眩しく発光する。

だがウィンストンは、その肉体美以上に、彼女の顔に浮かんだ「大胆な不敵な笑み」に釘付けになっていた。

彼は彼女の前に跪き、その両手を取った。

「前にも、こんなことを?」

「もちろん。何十回、何百回とね」

「相手は……党員か?」

「ええ、いつもそうよ」

「中枢の連中とも?」

「あんなクソ野郎どもとはしないわ。でも、チャンスさえあれば今すぐログイン(やりたが)したがる奴は山ほどいる。あいつら、見かけほど『クリーン』じゃないから」

ウィンストンの心臓が激しくノックした。数十回だって? いまや彼は、それが数百、数千回であってほしいと願っていた。

「バグ」や「汚染」の兆候は、いつだって彼に狂おしいほどの希望を与えた。もしかしたらこの完璧に見えるシステムは、中からとっくに腐り果てているのではないか。規律も自己犠牲も、ただの「クリーンなUI」に過ぎず、その裏側はドロドロの不正(エラー)で埋め尽くされているのではないか。

もし全党員の脳に致命的なウイルスを流し込み、この強固なネットワークを根底からクラッシュさせられるなら、彼はどれほど喜んで実行しただろうか。

彼は彼女の肩を掴み、跪いたまま至近距離で問い詰めた。

「いいか。君がこれまで繋いできた男の数が多ければ多いほど、僕は君を愛する。意味がわかるか?」

「ええ、100%理解してるわ」

「僕は『純粋』なんて反吐が出る。善意も、美徳も、そんなデータはこの世から消えてしまえばいい。全員が、骨の髄までシステムを裏切るクズであってほしいんだ」

「だったら、私はあなたの理想のタイプね。私は骨の髄までシステムを裏切ってる(腐ってる)から」

「これが好きなのか? 相手が誰かとか関係なく、この『ナマのバースト』そのものが?」

「……狂おしいほどにね」

それこそが、彼が求めていた「アンサー」だった。

洗練されたロマンスや愛の告白なんていらない。必要なのは、党が管理しきれない「動物的な本能」、そして「未分化な欲望」だ。それこそが、ビッグ・ブラザーの鉄壁のサーバーを物理的に破壊する唯一の力になる。

彼はブルーベルの花が敷き詰められた芝生の上へ、彼女を押し倒した。

もはや、そこにためらいはなかった。

やがて、二人のCPUがオーバーヒートを終え、心地よいシャットダウンの感覚の中で離れた。

ウィンストンが先に目を覚ました。

眠りに落ちた彼女のそばかすだらけの顔を見つめる。

そういえば、彼女のフルネームも、住所(IP)も知らないことに気づいた。

眠りの中で完全にログアウトした若く強い肉体。それを見つめるウィンストンの心に、憐憫の情が湧く。

だが、あのツグミの歌を聴いた時に感じた「無意識の安らぎ」は、もう戻ってこなかった。

かつて、男が女の体を見て、ただ「抱きたい」と思う。それで話は完結していた。

だが、今の世界に「純粋な愛」や「純粋な性欲」なんてものは存在しない。全ての感情は、恐怖という名のノイズと、憎悪という名のフィルタリングに汚染されている。

二人の抱擁は、甘美なデートなどではなかった。

それは、システムに対する「全面戦争」であり、絶頂は「勝利のログ」だった。

それは党の心臓部へ向けた、あまりに過激な政治的テロ(行為)だったのだ。

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